日芸学会誌掲載作品 (H24)

 

雨のむこう.1

雨のむこう.2

写真家の創作活動に直接かかわってくる大きな問題として、『肖像権』『盗撮』に絡む問題がある。なぜここまで無視できない問題になったのかと言えば、まず、デジタルカメラ、ケータイなどの映像機器の普及と、PCやインターネットにより、画像処理や発信が個人で可能になってしまったこと。そしてこれにより視覚の欲望を制御するのは自制しかなくなり、見るという欲望に流されやすくなってしまっている。
 
以前から「善悪はそれを用いる者の心の中にある」という良識の範囲内であったことは事実であるが、問題はその事象にとどまらぬ、行き過ぎといえるメディアの過剰な報道の姿勢と世論の反応がある。

 カメラを携行しているだけで不審者としてマークされる状況。街頭または日常生活においても、撮影行為が『盗撮』として認識される現状は、写真家としての存在そのものを否定される所業であり、例えば、牛腸茂雄のような優れた創作活動さえも、現在では不可能になりつつある。

 そこで、今回私は「雨」を表現の手段に取り入れてみた。自然の変化に任せつつ、写真ならではの空間の変化、個が特定不可能な利点、写真として成立させる方法を試みている。            山本 透    (平成24年

日本写真芸術学会誌 第21巻〈創作編〉